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【最終回】’80 ビンテージMXR DISTORTION+を調べてからCabatortion±制作するまでの記録


ということで今回は1980年製のMXR Distortion+のビンテージサウンドを追い求める宿題の最終報告と、Cabatortion± という実機を制作しました。その制作までの過程のまとめになります。

なお、この記事はDistortion+のMod方法や、詳しい制作ノウハウについて説明していませんのでこれから制作される方にとっては全く参考にならないです(すいません)。
なので単なる記録を収めた長い記事ということで悪しからず。

’80 MXR Distortion+を調べてることになったきっかけ

いつもお世話になっているビンテージギター/アンプ/ペダルに詳しい いきすぎたDIY さんが1980年製のMXR Distortion+の枯れたサウンドを気に入られたということで、YouTubeにコンテンツをアップされました。

こちらはDistortion+をトゥルーバイパスに改造するという動画です。これは参考になりますね!

そしてこちらが、Distortion+仲間との比較動画。どれも素晴らしいサウンドですね!

で、いきすぎたDIYさんがこの貴重な1980年製ビンテージMXR Distortion+を私に送って頂けることになったのです!

更にミラクルが起こり、同じく1980年製 Distortion+を所有されていたデルリンさんまで、貸して頂けるということになったのです。

お借りしたDistiortion+の音を出してみたら単なるハードクリッピングじゃ無いのでは?という疑念が生じた

で、せっかくMXR Distortion+が揃ったので音出しました。

そこで気がついたのは、微小信号領域と、大音量の領域で歪みの質感が異なるということでした。
微小領域ではチリチリとした高次の倍音を散りばめながら絶妙にサスティしていくこと。
大音量では一気に複雑な倍音が増える感じで、回路的には2つの異なる歪み領域が存在しているのでは無いかということを疑ってみました。

再度シミュレーションで深掘りすることにした

以前にMXR Distortion+のシミュレーションした記事をアップしていましたが、この時は周波数特性を掴むくらいのレベルで歪みに関しては深掘りはしていませんでした。

当時はハードクリッピングはオペアンプで増幅した信号を単にダイオードでバッサリ切り取っているくらいしか考えてなかったんですね。

なので再度Distortion+の歪みについてシミュレーションで深掘りしてみることにしました。

そのシミュレーションの結果、Distortion+は小音量時にはダイオードクリッピング、大音量時はオペアンプ飽和が起こっていることが確認できました。
しかもオペアンプが盛大に非対称クリッピングしているということです。

ブレッドボードで非対称クリッピングが発生する回路を作ってみた

オペアンプLM741を使ってブレッドボードでDistortion+回路を組み、クリッピングダイオードを付けない状態で簡易オシロスコープで確認してみることにしました。

ということで、LM741オペアンプによる非対称クリッピングを確認しました。シミュレーションの結果通りだったということでここで一安心。

で、このブレッドボードにIN34Aゲルマニウムダイオードをつけて音出し比較した動画がこちら。

ビンテージサウンドとは他にどんな要因があるのか実機で確認したくなったので1台組んでみた

ここまでで、MXR Distortion+の歪みの発生メカニズムが大体判って来ましたので、次は、いきすぎたDIYさんがおっしゃるビンテージサウンドはどこから出るのかを検証してみることにしました。

80年台のMXRのペダルの特徴はセラミックコンデンサが使われているということですね。

なのでそれらと比較する為に今でも千石電商などで入手可能なパーツ(ポリエチレンフィルムコンデンサ、タンタルコンデンサなど)をユニバーサル基板で組んだものとどのような違いが発生するのか?を検証してみることにしました。

結局4台のMXRを実機の波形を確認しました。

結局、μA741オペアンプも80年代に製造されたものは特有の誤差みたいなのが発生するようで、新し目のLM741と比較すると挙動が違うということが判りました。

ゲルマニウムダイオードも非常に個体差が多いことも確認した

次に、ハードクリッピングを行うゲルマニウムダイオードも計測してみるとやはりその個体差が大きいことを確認しました。

誤差が大きいダイオードを二本パラレルに使いますので、実機ではやはり個体差も発生しているんでしょうね。

セラミックコンデンサが非常に問題が大きい(つまり美味しい)ということを確認した

で、こんなことをしている間に最中に問題になったのはセラミックコンデンサの計測結果がめちゃめちゃ不安定ということです。
ペダルにディスクタイプのセラミックコンデンサを使うことはクローンを制作する以外あまり無いのですが、積層セラミックコンデンサでも同様の現象が発生していたこととを思い出しました。

セラミックコンデンサって最初にショートさせないと値が変わりますし、更に指で持って計測しているとどんどん値が変わっていくんですよね。
なので、指で持たないで計測するようにしました。(まぁ有識者の方にとっては当たり前のことかもしれないのですが)

ということで、セラミックコンデンサがいかに不安定であるかということを、ホッカイロで温めてみたりしてw調べてみました。

ということでビンテージのディスクタイプセラミックコンデンサ最高ですね!

’80 Distortion+はもうポットまでビンテージスペックだった

更に千石パーツで組んだDistortion+回路と、実機はどうしてもDISTORTIONツマミの動作が一致しない問題にぶち当たりました。
それを検証したのがこちらの記事。

ポットが690KΩが使われているというのが発見でした!

CabaTortion±を作成する

ということで、これまでいろいろ調べましたので、Distortion+の回路を多少アレンジしたCabaTortion±なるものをユニバーサル基板で一品制作することにしました。

今でも購入できるLM741とゲルマニウムダイオードを使います。
で結局セラミックコンデンサがサウンドのカギを握っているということですが、前の記事の通り個体差が激しいので手持ちの中から計測していい塩梅の値になっているものを付けました。
タンタルコンデンサも一応個体差があるので計測したものを採用。
抵抗は逆にカーボンソリッド抵抗を採用しました。オリジナルは普通の炭素皮膜抵抗でしたが、基板に装着された姿はカーボンソリッドの方がカッコいいので採用ですが、実はカーボンソリッド抵抗ならではの20%以上の誤差も利用しています。(つまり表記通りの抵抗値になっていないものも使っています)

筐体はMXRサイズのハモンド1590Bを選択しました。

組み込みます。

もちろん、トゥルーバイパス、LED、DCアダプタをを付けることにします。ここはオリジナルをコピーすることは無いですねw

オリジナルに近い基板サイズで作ると、ちょうど1590Bに収まるのは当たり前ですね😃

完成しましたが、勿論ノブはMXRタイプを採用です!

ただオリジナルのMXR筐体はフィレットが付けられているということに気が付きました。
ハモンドの190Bは少しエッジが立っていますね。もしかしたらタカチ製のケースの方が雰囲気は近いかもですね。(私は圧倒的にハモンドの方が好きですが)

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CabaTortion±音出し

今回は基板のテストから組み込みまで問題なく音が出ました。(珍しいですw)

でちょと工夫してオリジナルが690KΩのDISTORTIONツマミに合わせて大体同じ位置になるようにしました。

CabaTortion±最終仕上げ

でお約束のDYMOテープを貼って出来上がりです。

ちなみに、CabaTortion±のネーミングの理由は、こちらのバイアスプラスマイナススイッチにあります。オペアンプのバイアスをプラスしたりマイナスしたり変更できるように無理矢理こじつけて付けました。(ここ最近単なるコピーでは怒られるかもしれませんのでw)

ということでCabaTortion±と1980年製MXR Distortion+のツーショットです。

ちなみに9V DCソケットとLEDは最近のDistortion+の位置を参考にしていますw

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まとめのまとめ、ビンテージサウンドは存在するのか?

今回の80年製MXR Distortion+の宿題は、ビンテージサウンドというのは存在するのか?ということで始めたのですが、私の中ではやはりビンテージサウンドは存在するという答えが出ました。

  • Distortion+ではオペアンプクリッピングが行われているが、80年代製造のオペアンプと最近製造のオペアンプでは特性が大きく異なっていた。
  • 現代のペダルではあまり使われることは無いゲルマニウムダイオードはサウンドの影響は大きい。そしてゲルマは個体差は本当に大きかった。
  • 現代のペダルではあまり使われることは無いディスクタイプのセラミックコンデンサは個体差が大きくかなり不安定だった。回路図の値やラベルの容量値は参考にならなかった。
  • ポットが高価なCTS製が使われ、更に特殊な抵抗値のものが使われていた。
  • 40年の間に劣化もそれなりに進行していた。タンタルコンデンサ、セラミックコンデンサは経年変化に弱い、更にパーツのリード線などにかなりの腐食が進んでいた。

これらの要素以外に、ジャック、スイッチ、配線材、基板の材質、カーボン皮膜抵抗などが与える影響もあるかもしれませんが、もしかしたらこれらは敏感な方で無いとブラインドテストでは判別できないかもしれません。
しかし、今回調べたオペアンプ、ダイオードはYouTube経由の音声でも明らかに違う結果になりますし、コンデンサの値は歪みペダルで重要なハイカットやローカットのイコライジングにかなりの影響を与えていました。更にポットの違いで歪み具合も明らかに違っていました。
よってこれらのパーツを現代の高精度で高性能のパーツに置き換えても同じものを作るのは至難の技かと考えられます。

ということでMXR Distortion+は歪みペダルとして最も単純な回路構成ですが、それでもこれほどの違いが出たことに自分でも驚きでした。

ただ、それではビンテージペダルの方が良い音なのか?というのは別問題だと思います。
ことペダルの場合は、ツマミを少し動かすだけでサウンドは変化しますし、現代バージョンvsビンテージバージョンで同じツマミ位置で比較するレビューと言うのもナンセンスだと思います。それぞれ自分でベストなセッティングに追い込んで比べるのが良いですね。

ということでビンテージペダルの場合は古く作らたものが残っているだけで価値がプラスされていると思います(良い音だから生き残っているともいえます)が、もし現代版で良い音が作れるのであれば、ビンテージというマジックワードにこだわる必要もないのではと思いました。

お礼

1980年製 MXR Distortion+を快く貸していただいた、いきすぎたDIYさんと、デルリンさんに感謝いたします!

では!

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