HeathKit TA-28 Distortion Boosterを作りたくなったので回路をシミュレーションしてみた
いきすぎたDIYさんにお借りした1.5V単三電池1本で動く激レアFUZZのHeathKit TA-28の実際の音はかなり私好みなものでこれが1.5Vで出せる音なのか?とちょっと驚いてしまい、これを自作してみたくなりHeathKit TA-28 Distortion Boosterのシミュレーション回路を起こしてみました。

今回のシミュレーションの目的としては、私がお借りした 固体が何故素晴らしく使える音になってしまったのかということです。(解ればいいのですが、、、、)
いきすぎさん modの効果を確かめてみた
まず、いきすぎたDIYさんmodでは、出力の抵抗外しと、トーン回路の抵抗を変更するということでした。
先日ゲットしたヒースキットFuzzですが~
動画あり【レア70年代Fuzz 】HEATHKIT音を大きく改造(かなりの守備力です)
僕の大丈夫ですが、 デジマート地下実験室の室長の井戸沼さんのは音がめちゃ小さいみたいで調べてみました♪
改造の参考にしてください~!
あまり持ってる人はいませんが~~笑
これをシミュレーションしてみます。
ちなみに②は①の抵抗外しも加えています。

すると、このようにいきすぎたDIYさんmodによって、20db以上も音量が大きくなります。
HeathKitの周波数特性は本当にFlatですね。
TS系やトランスペアレント系のようにミッドに寄った周波数特性とは異なりFuzzFaceに近い周波数特性ということが判ります。
HeathKitのトーン回路はローカットとハイカットの動作をするパッシブタイプになりますが、このmodによって犠牲になるのはトーン回路の効きのようです。

mod後(紫色のプロット)のTone MAXでのローカット時はやや重心は低くなりながらも低域をカットするようになっています。
一方で、Tone MIN時では抵抗値の増加によってハイカットの効果が弱まり高域の減衰は少ないようです。(逆にそれがフラットな特性に落ち着いているようです。)
ただ、現代の殆どの歪みペダルの殆どがローカットした上でアンプをプッシュするという方向性ですので、あえてハイカット(=ローブースト)を行う必要は無いと思いますので、逆にmod後は使いやすいトーンコントロールとなっているとも思います。
いきすぎさんmodのまとめ
- 音量大幅アップ
- ローブースト機能が弱くなり、いい塩梅になる
HeathKit TA-28 mod後回路のシミュレーション
さて、ここから、ギターとケーブルも繋げたシミュレーションにします。

トーンは2/10(Bカーブだと)くらいにするとこのようにとても素直な周波数特性と言えると思います。
波形とFFT(周波数分析)はこんな感じです。

HeathKitは非対称の出力で、綺麗な偶数時倍音も出ています。
また、倍音も偶数次、奇数次ともに高い領域でも減衰が少なくきっちり出ています。
ただFuzzFaceのような超荒れた倍音構成とも異なります。
このFFTを見る限り1kHzだけの波形ですので何とも言えないのですが、HeathKit TA-28は歪みペダルのある意味最も綺麗で理想的な倍音出力かもしれませんw
ブレッドボードで組んでみて判ったこと
いったんシミュレーションから離れてブレッドボードで組んでみることにしました。
で本来のHeathKitはキットでユーザーが組み立てるキットでユーザー自身がパーツ店で購入されたのでしょうか?
ネットで検索した基板を見ると様々なパーツが使われているようでした。
更に、おそらく当時は高精度のオーディオパーツのようなものは無く、すべてが一般電子部品として構成されていた筈です。
なのでパーツの個体差があるということは容易に想像できます。
実は、私もこのHeathKitを組み立てるにあたって、気合を入れてFUZZペダルで定番のカーボンソリッド抵抗を使ってやるぞーと思って回路図通りのものを買ってきました。購入したのは、ビンテージでは無く今も生産されている例のカーボン抵抗で精度は金ライン、つまり±5%ものです。

で、100kΩと82KΩの抵抗それぞれ2本づつを下のLCRメーターを使って計測してみました。

すいません写真を撮り忘れたのでこれはコンデンサを計測している様子です(^^

購入したカーボンソリッド抵抗の実測値は以下のようになりました。
カラーコード値 | 実測結果 その1 | 実測結果 その2 |
82KΩ | 74.97KΩ | 75.42KΩ |
100KΩ | 99.85KΩ | 102.18KΩ |
82KΩの方は誤差5%ギリの範囲内には収まっているようですがややブレてますね~
で問題はQ1トランジスタのバイアス抵抗で分圧で使うこの2本が、82KΩの方が下ブレ,100KΩの方が上ブレしているということです。
で、このブレた値をシミュレーションに入れて動かしてみると、このような波形(最終出力を見ています)が出て来ます。

これをFFTで見るとこんな感じになります。

偶数次倍音の発生具合が違いますね。
これは、HeathKitの回路がバイアス電圧に非常に敏感なことも判りました。1.5Vの狭い範囲でクランチ~Fuzzを作っていることからもかなりスイートスポットの定数で設計されていることも伺い知れます。
また、ここ以外も音に敏感に作用する抵抗がありました。
まとめ
- HeathKitの回路は抵抗値に敏感
- 市販の±5%抵抗でもその影響が現れる
電池が減って来るとどうなるのか
バイアス値に敏感ということが判りましたので、今度は電圧を変えてシミュレーションしてみます。
1.5V乾電池の場合、フレッシュな場合は1.5Vですが、その後1.2Vがしばらく続くのが基本的な特性のようです。
なので、1.5Vと1.2Vでシミュレーションしてみました。

電圧が1.2Vに低くなると2次倍音が出るようになりますね。
前のバイアスが変わった時と同じ音になるようですね。(ある意味当然ですが)
更に1Vだとブチブチサウンド、0.9Vで動作しなくなるというシミュレーション結果になっています。
ちなみに、FuzzFaceの回路で9Vと8Vでどうなるのかというシミュレーションもやってみました。

HeathKitは電圧によってバイアスがズレるような動きですが、FuzzFaceはちょと音量が変わるのかなという違いに見えます。倍音の構成もほぼ平行です。
まとめ
- HeathKitは電池の減りで音が変わる可能性が高い
HeathKitのトランジスタを変えるとどうなるのか?
ネットに公開されているHeathKitの回路図では、2N3391と2N3906が使われているものや、二段目がX29A829という謎のトランジスタが使われている回路図があります。
でいきすぎたDIYさんのブログで公開されている、HeathKitの基板写真を見ると更に謎トランジスタが搭載されているようです。

Q1は謎の型番で、Q2は通常のシリコントランジスタのTO-92パッケージでは無い形状です。
なのでトランジスタを変更するとどうなるのかということをシミュレーションしてみます。
そこでLTSpiceのライブラリにあった、小信号増幅用のPNP/NPNペアの2SA1774と2SC4617トランジスタがあったのでHeathKitの回路でシミュレーションしてみました。

こちらがシミュレーション結果です。

2N3391と2N3906 は非対称の出力となっていますが、
2SA1774と2SC4617 の組み合わせでは対象に近い波形となりました。
FFTするとこんな感じです。

2SA1774と2SC4617 の方が二次倍音も減って、より安定した正確な(^^周波数分布となっています。
周波数特性はほぼ一緒ですが音量が少し上がるようですね。

2SA1774と2SC4617 のペアトランジスタは作動増幅など特性を揃えるペア動作で指定されているものですが、もしかしたら2つのトランジスタの特性を揃えない方がよりFuzzとしては官能的な音になるのかもしれません。
つまり、現代の特性が良いトランジスタではつまらない音になるということも判ったような気がします。
まとめ
- HeathKitはトランジスタの種類で音が異なる(Fuzz系では当然ですが)
- 最近の特性が揃ったトランジスタを使うとはつまらない音になりそう?古いトランジスタは個体差も大きい筈
つまりHeathKitは個体差や状態差が激しい
シミュレーションする限りHeathKitの回路は、抵抗の誤差、トランジスタの違い、電圧の違いでかなり敏感なことが判りました。
それに加えて70年代の電子キット販売ですので、コンデンサ、ポット、線材なども様々なものが使われています。
勿論当時はオーディオ用のパーツは使われていませんので、電子パーツ屋で販売されているパーツが中心ですのでこれも難しいところです。
事実、私もブレッドボードでHeathKit回路にオーディオ用コンデンサを使って組んでみると、明らかにフラットで深みが無い音になってしまいました。
よって、各パーツの音の良さを追求するのでな無く、どこかのパーツが音質追求とは逆の何らかの作用で官能的な効果をもたらしていると考えるしかありません。
また制作された方の工作技法も異なりますので、更に話は複雑です。
ということで、話は戻っていきすぎたDIYさんの固体が良い音がする理由の予測はこんな感じ。
- 音量アップmodが確実に効いている。
- トーンもフラットになっている。
- 抵抗の誤差によるズレでミラクル個体になっている
- いきすぎたDIYさん固体が、回路図通りなのか、ズレているのかは不明(^^。
- もう手に入れることができないトランジスタが使われている
- コンデンサや線材のパーツのコンビネーションが抜群
HeathKitのクローンを作るには
シミュレーションの結果、私個人としてはHeathKit TA-28の回路をコピーしても、元の個体と同じ音にするにはほぼ不可能ということが判りました。(電池の減り具合だけで音も変わりますし)
クローンを作る上で出来る工夫はこんな感じでしょうか
- 影響が大きい抵抗の誤差を補正する為に半固定にする(→結果耳で調整するしかない)
- 最適なトランジスタを見つける(→現在手に入れるものでしか試すことができませんが)
- オーディオパーツは使わない、ハイエンドな線材は使わない
というかこれらはFuzzを制作する上で基本中の基本かもしれませんが、それでもHeathKitはFuzzFaceよりもいろいろ敏感な回路のようなので、これから苦労しそうですw



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