’80ビンテージ MXR DISTORTION+ クリッピングダイオードは出音とどう関係しているのかを計測して考えてみた
これまでのおさらい
前回まで、1980年製 MXR DISTORTION+ が3台集まってしまいましたということで、シミュレーションから実際の動作をPCのオシロスコープソフトで確認してきました。
で、ここまではDISTORTION+の特徴的な歪みはオペアンプの電圧クリッピングによって作られていたという、衝撃的な結果(当社比)となりました。
いや、クリッピングダイオードも重要だ!
しかし!ハードクリップディストーション回路ですから、ダイオードも出音にハードに影響を与えている筈です!
更に、ゲルマニウムダイオードという現代の電気回路ではほぼ使われ無くなったレトロなデバイスが使われているのですから現代のディストーションとは異なる出音になっている筈です。
なので今回は、そのDISTORTION+のゲルマニウムダイオードについて考察したいと思います。
DISTORTION+の音の最終決定はクリッピングダイオードで行われている
DISTORTION+の回路でクリッピングダイオードは下の回路図のD1/D2でゲルマニウムダイオードの1N34Aということになります。
このダイオードと並列に1nFのコンデンサがありこちらも音を決める重要な要素です(別の機会に検証します)。
で、クリッピング回路のあとはボリュームの可変抵抗を通って出力ということになりますので、言わばクリッピングのゲルマニウムダイオード2本とこのコンデンサがDISTORTION+の音を最終的に決めることになる重要なパーツである筈です!
ゲルマニウムダイオード1N60を20本計測してみた
DISTORION+のクリッピングダイオードは1N34Aですが今回は同じゲルマニウムダイオードである1N60を少しストックしていましたの題材にしてみます。(後の動画で1N34Aの方もサウンドチェックは行っています)
ダイオードの代表的な特性といえば順方向電圧(クリッピングし始める電圧)値ということになりますが、今回はダイオードの特製を見る為に、電圧と電流の特製グラフとして計測してみました。
下のグラフが1N60、20本の計測結果です。横軸が電圧、縦軸が電流になります。
このグラフを見るとかなりの個体差があるようです。
クリッピングは0.2mAから0.4mAの間で行われますが、それより右の傾きクリッピング時の実質的な抵抗になります。なのでその傾きが違うということでクリッピングダイオードに起因する個体差はある程度発生して来ることが考えられます。
別ロットの1N60も計測してみた
ちなみに今回1N60を計測題材として選んだのは、80年製 MXR DISTORTION+の1台を提供して頂いたいきすぎたDIYさんが、それと一緒にゲルマニウムダイオードまで一緒に送ってきてくれたからですが、その中に1N60が入ってたからです。
送って頂いたダイオード2本を同様に計測してみました。
赤いグラフ線が私の20本の1N60の中間的な値となるもので比較リファレンスとします。
で、この2本の1N60のグラフはいずれも右方向に結構偏っています。
よって(まぁ偶然からもしれませんがそれにしても)おそらくですが、製造年、製造地、その結果のロット、あるいはセカンドソースの可能性も考えられますのでより個体差も大きくあるのではと考えられます。
シリコンダイオードはどうなの?
ちなみに、いきすぎさんが送って頂いたダイオードには、整流ダイオード(つまりシリコンダイオード)も2種類入っていました。
上がW06というもので、下がお馴染み1N4007です。
これらを同様に計測下結果がこちらのグラフです。
今回も赤線がリファレンスのゲルマ1N60です。
エフェクター制作の教科書通り、ゲルマダイオードが0.2Vくらいから、シリコンダイオードとして0.6Vくらいからクリッピングが開始される特製が判ります。
そしてシリコンダイオード2種類それぞれ2本つまり4本の特性は比較的揃っているということも判りました。
また、ゲルマニウムダイオード1N60よりもダイオードとしての特製はやはりシリコンダイオードの方が優れているようです。(但し、順方向電圧はゲルマの方が低いし、特性もなだらかなので歪み回路用としては一長一短とも言えると思いますが)
更に別のゲルマダイオードも計測してみた
さて、いきすぎたDIYさんが送ってくれた別の謎ゲルマニウムダイオードに戻して計測してみます。
下のグラフが上の2本の謎ゲルマニウムダイオードの計測結果です。
赤線はリファレンスの1N60です。
このダイオードは1N40よりもグラフの傾きが急ということでほんの僅かですがダイオードとしての特性がよく、更に2本とも特性揃っているようですね。(サンプル数2なので偶然かもしれませんが)
まぁ0.4Vまでの特性は1N60とあまり変わらないとも言えると思いますが、それにしてもゲルマニウムダイオードは型番が変わると特性も結構違うようですね。
更にクセが強いゲルマダイオードを計測してみた
更に!いきすぎさんに送って頂いた別の謎ゲルマニウムダイオード4本を計測してみます。
下のグラフが計測結果。
赤線がリファレンスの1N60です。
この謎ゲルマニウムダイオードは1N60と特性がかなり違いますね。
電圧が低いところではより緩やかに電流が増加、電圧が高くなると電流が流れやすくなる特性のようです。
更に4本の誤差も大きいようですね。かなりクセがあるゲルマニウムダイオードのようです。
やっぱりゲルマダイオードは個体差も型番差も大きかった
話は長くなりましたが、ゲルマニウムダイオードの特性を計測してみた結果をまとめると、、、
- ゲルマニウムダイオードはばらつきが大きい。
- ロット違いでも大きく異なる可能性がある。
- ゲルマニウムダイオードは型番による特性差も大きい。
ということでいかがでしょうか?
DISTORTION+では音の出口の歪みに最も大切な部分にこのような誤差が大きいゲルマニウムダイオードが2本使われているということです。
更に2本の組み合わせもありますので、それも個体差の要因を更に複雑にすることも考えられます。
やっぱりDISTORTION+の個体差はゲルマダイオードの特性違いも影響していそう
ちなみにダイオードのスペックなどをいろいろ調べて見ると、電圧/電流特性だけでは無く、スイッチング特性や、逆方向の特性、また寄生容量などなどもあるようで、これらのどの要素がどのようにディストーションの音に関連して来るのかはもっと研究しなければ分かりません。
ただ、今回計測してみて解ったのは、ダイオードの個体差が必然的に製品としての個体差にも結構影響を与えているのではということです。
それではゲルマダイオードを変えて音を出してみよう!
ということで、ここまで来て予測だけでは済まされないwのでブレッドボードで組んだDISTORTION+回路に様々なゲルマニウムダイオードをつけて実際に音を出してみた動画2本をアップしてみました。
最初にDISTつまみをゼロで鳴らしていますが、これはオペアンプによるクリッピングが行われておらず、ゲルマニウムダイオードのみでクリッピングしている状態の確認です。
そして後半はDISTツマミを全開にしたことでオペアンプクリッピング+ダイオードクリッピングの歪みになっている状態だと思います。
いかがでしょうか?
申し訳無いのは私のウデでは全て同じように弾くことはできませんが、それにしてもハードクリッピング回路はダイオードを変えるだけでかなり出音が変わって来るのは解っていただけるのではと思います。
DISTORTION+ 回路でのゲルマダイオードの影響まとめのまとめ
- MXR DISTORTION+の回路は、ゲルマニウムダイオードの種類が最終的な出音に大きく影響を及ぼす。
- ゲルマニウムダイオードなので個体差もそれなりにある筈。
- ビンテージと現代ものではロットが全く異なる筈で個体差に加えて年代による違いも出て来る筈。
ということで長い記事になりましたが、ご清聴もありがとうございました。
で、今回はクリッピングダイオードにフォーカスしましたが、ビンテージのMXR DISTORTION+は更に別な部分も現代版との大きな違いがあります。
次回はオペアンプ、クリッピングダイオードに加えて別なパーツも突っ込んでみたいと思います!
そして、各種ダイオードを提供して頂いたいきすぎたDIYさんありがとうございました!
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