シミュレーションでお勉強:Tone Bender Mk.1は沼にハマる最高傑作なFUZZ回路だった
funk ojisanが TONE BENDER MK1 の動画をアップしたので沼にハマってしまった
みんな大好きfunk ojisanが世の中のオジサン達がザワつくようなToneBender MKIネタ動画をアップされていました。
この動画でのTone Bender MK.IのクローンであるJERMS The ToneBender MK1の音本当に素晴らしいですね!なんだかひさしぶりにケンケン店長の目がマジになっているのが判りるような気がします。
ということで、私もToneBender MK1に若干ハマり気味になってしまい例によってシミュレーションしてみたいと思います。
ToneBender MK1の回路を探してみた
まずはネットにアップされているToneBender MK1の回路図の入手ですが、ググっていくと、あのJanRayの隠された基板とパーツを解析しTimmyと似ているのではということを根性で突き止めたLa Revolution Deuxのサイトでした。
これまた詳しい解説記事と回路図がアップされていて、ToneBender MK1にチャレンジされている皆さんこれを参照にされているのではと思います。
- SolaSoundのGary Hurstゲイリーハースト氏がGibson Maestro FuzzTone FZ-1の回路を参考にした。
- 長いサスティンが出るように。
- 9Vバッテリ駆動とした。
- ビートルズ、ヤードバーズ時代のジェフベック、ピート・タウンゼント、ミック・ロンソンが使用した。
SOLASOUND ToneBender MK1の回路図
更にゲイリーハースト氏が作った回路図もアップされています。(90%同じでカップリングコンデンサが0.1μが25μになっている)
Tone Bende MK.Iのゲルマニウムトランジスタを調べてみる
この2つのToneBender MK1で使用されているゲルマニウムトランジスタは以下の通り(ゲイリーバーストモデルの方はhfeも記載されています)
- Q1 Mullar OC75
- Q2 TI 2G381 hfe =120
- Q3 TI 2G381 hfe =92
ということですので、各トランジスタのスペックを調べてみました。
- Type Designator: OC75
- Material of Transistor: Ge
- Polarity: PNP
- Maximum Collector Power Dissipation (Pc): 0.125 W
- Maximum Collector-Base Voltage |Vcb|: 20 V
- Maximum Collector-Emitter Voltage |Vce|: 20 V
- Maximum Emitter-Base Voltage |Veb|: 10 V
- Maximum Collector Current |Ic max|: 0.01 A
- Max. Operating Junction Temperature (Tj): 80 °C
- Transition Frequency (ft): 0.1 MHz
- Collector Capacitance (Cc): 50 pF
- Forward Current Transfer Ratio (hFE), MIN: 55
- Type Designator: 2G381
- Material of Transistor: Ge
- Polarity: PNP
- Maximum Collector Power Dissipation (Pc): 0.25 W
- Maximum Collector-Base Voltage |Vcb|: 20 V
- Maximum Collector-Emitter Voltage |Vce|: 20 V
- Maximum Emitter-Base Voltage |Veb|: 3 V
- Maximum Collector Current |Ic max|: 0.5 A
- Max. Operating Junction Temperature (Tj): 85 °C
- Transition Frequency (ft): 1 MHz
- Collector Capacitance (Cc): 50 pF
- Forward Current Transfer Ratio (hFE), MIN: 75
ということがわかりました。
ToneBender MK1のシミュレーション回路
ということで、これらの情報から例によってシミュレーション回路を作成しました。
また、Fuzz回路においてはギターやケーブル回路が影響する場合が多いのでシミュレーションに加えてみます。
それでは以下の順番でシミュレーションしていみます。
- 初段トランジスタの出力波形とFFT(周波数分析)
- ギターのピックアップ出力を固定して、ATTACKノブを 変化。
- 二段目トランジスタの入力波形
- 二段目トランジスタの出力波形
- ToneBender MK1全体の出力波形とFFT(周波数分析)
- ATTACKノブを固定してギターピックアップの出力を変化させる。
- 初段トランジスタの波形とFFT(周波数分析)
- 二段目トランジスタの波形とFFT
- 三段目トランジスタの波形とFFT
- ATTCKノブを変化させた時の周波数特性
一段目トランジスタの出力波形とFFT
一段目トランジスタは、増幅の役割を持たされていません。しかしバイアス電圧が適切に掛けられていないので下の波形のように非対称とて出力されます。
それをFFTしてみると、まさに倍音発生回路であることが判りました。
二段目トランジスタの入力波形を見る ATTACKノブを0~MAXまで変化させる
ToneBender MK1のATTACK部の回路は、二段目のトランジスタベースのバイアス電圧をコントロールする回路になっています。
FazzFaceやToneBender MK2、MK1.5はトランジスタの交流増幅率+帰還率を変化させるものだったのに対し、原理が異なりますね。
そこで二段目のトランジスタの入力波形を見るとこんな感じになります。
波形がほぼ並行でシフトしていますので、バイアス電圧をシフトさせているということが判るかと思います。
二段目トランジスタの出力波形を見る
下の図がQ2トランジスタの出力波形です。
Q2の入力のバイアスシフトさせた分、波形の+側だけ増幅率が上がって行く仕組みとなります。
かなり強い非対称クリッピングになりますね。
ToneBender最終出力はどうなるのか
最終的に三段目のトランジスタでは更に増幅率が高く、両側クリッピングが起きます。
その後、コンデンサ、抵抗を通り(2.2Mの直列抵抗がめずらしい)レベルが整えられてこのような出力波形となります。
FFTします。
このようにTone Bender MK1は常に豊富な倍音を発生させるFUZZだということが判りますね。
初段のトランジスタで、まず倍音を発生させるのがキモのようですね。
次はギターの出力値を変化させるとどのような動きになるのかをチェックして行きたいと思います。
ATTACK = 50%でギター出力20mV~500mVに変化させて初段トランジスタの出力を見てみた
Q1トランジスタの出力波形はこんな感じでした。
低い入力レベルから倍音がたくさん発生していますね。ブチブチしているということです。
ギター出力変化で二段目トランジスタの出力はどうなるのか
Q2トランジスタの出力波形はこんな感じです。
Q2の回路は反転増幅となります。
ここでもバイアスがズレているので、+側が大きく増幅される非対称増幅になります。
2段目も非対称ですので、やはり2次倍音もリッチに発生していますね。
ギター出力を変化させて三段目トランジスタの出力を見てみた
Q3トランジスタの出力波形です。
Q3も反転で増幅しますが、更に増幅率が高いことから、結果両側でクリピングされることになります。
が、Q2までの非対称波形の名残が見れますので、結果FUZZとして偶数次倍音+奇数次倍音豊かなサウンドになります。
ここでちょっと深掘りしてみます。
まず入力レベルは、赤<青<黄色<薄青<紫 という順です。
で、どのレベルでも基音の1KHzはほぼ同じレベルでコンプレッションされます。
入力レベルが小さくても歪むということですね。
で驚くことに二次倍音の2KHzのレベルを見ると、紫<薄青<黄色<青<赤 となっています。
つまり、入力レベルと反比例して二次倍音が発生することが判ります。これは四次倍音でも同じです。
対する三次倍音の3KHzは 赤<青<黄色<薄青<紫 と入力レベルと同じ関係となります。
更に五次倍音、七次倍音はもう少し複雑な順番となりますね。
ToneBender MK1にギターを繋げた時の周波数特性を見る
下の図がToneBender MK1の周波数特性です。Attackを絞るとややピークは高域に移動しますが、ほぼフラットなまま並行移動するだけ。めっちゃ綺麗ですね。
更に、ゲイリー・ハーストさんの回路では二段目と三段目のトランジスタの間にあるカップリングコンデンサが0.1μ→25μになっていますが、それをシミュレーションしてみるとこんな感じです。
凄い!更に超フラットです。
ちなみに、高域でちょっとピークがあってカットオフされいるのは、ギター回路の周波数特性が加わっているからです。
ToneBender MK1単体の周波数特性を見る
で、シミュレーション回路からギターとケーブル回路を外して、純粋にToneBender MK1回路だけでシミュレートした周波数特性はこんな感じ。
ほぼフラットですね。また、1段目のトランジスタがバッファ的に低インピーダンスですので、ギターを繋いでも大きな変化は無いようですね。
これはFuzzFaceのように、ギターと一体化した回路にとは異なるところです。
更にゲイリーハースト氏の回路は更にフラットな特性になります。もう立派なオーディオ的な周波数特性って感じですね!
回路を見ると、カップリングコンデンサ以外のコンデンサは全く使われていないこことから、基本フラットな特性になるんだろうなと思います。
よってコンデンサなどによる、特定の音色が付けられていないというのもToneBender MK1の特徴かと思います。
ToneBender MK1 シミュレーションまとめ
いやー驚きました。
ToneBender MK1は、シリーズ初期のペダルとして、最も単純なトランジスタ3石の増幅回路のように見えます。
しかし実は、3石それぞれに役割を持たせ、その結果表情豊かな歪みのサスティーンを発生させる素晴らしいFUZZであることが判りました。
- 小入力からすぐに歪み、サスティーンが長いFUZZらしい歪が実現されている。
- その代わりFuzzzFaceのようなギターのボリュームを絞って鈴鳴りという回路でもない。
- 豊富な2次倍音。
- それに入力レベルで刻々と変化する高次の倍音変化が加わる。
- 素直な周波数特性。
- コンデンサによる意図的な色つけはされていない。
- ゲルマニウムトランジスタの特性がそのまま音になる回路。
- トランジスタの選別や温度変化に敏感そう。
ということで、ToneBender MK1は3つのトランジスタが独立して仕事する回路なので自作するとすればOC75や2G381のよなレアなゲルマトランジスタを探した挙げ句、選別を外れた個体しか入手されず結果失敗するよりも、他のちゃんとhFEが100~120得られていて漏れていないゲルマトランジスタを組み合わせて作るのがいいかもしれませんね。
オマケ>やっぱりBOSSは凄い
で、前回、前々回とRoland BeeGeeとBOSS DS-1のシミュレーションを行ってきましたが、この2つのペダルが他のディストーションと異なるのは、初段トランジスタ回路で大量の2次倍音を発生させているということでした。そして大入力になるとオペアンプで歪ませていること、また小入力から最終のダイオードのハードクリッピングでという3段で歪ませていることです。
そして今回のToneBender MK1の回路(まさに3段で歪を作っている)の考え方ととても似ているということが判りました。
おそらくRoland/BOSSは当時、有名なFUZZペダルを徹底的に分析し非対称クリッピングによる偶数次倍音をいかに発生させるかということを追求していたように思えます。
それがDS-1の初段トランジスタ、OD-1の非対称ソフトクリッピングとして実現させたのでは無いかと思います。
またBOSSは、このような有名な海外のペダルの回路をコピーすることはせずに、独自の回路でこれらの要素を実現しているのが素晴らしいところですね!