TS系1号(TS9クローン)の基板観察&Ibanez TS9と比較テストしてみた
きっかけはTS系クローン&TS Modペダルを貸していただけたことから
ギター界隈の歪ペダルの中で一番種類が多いのはおそらくTS系では無いかと思います。
で皆さんご存じのように有象無象のTS系ペダルが溢れている訳ですね。
まずはTS系がここまで繁殖した理由を考えてみると、、、
まずは回路がシンプルで安定しているのがその1つの理由であると思います。
オペアンプが1つあれば歪み回路とトーン回路を構成できます。
そしてオペアンプの4558をはじめとして特殊なパーツは使われておらず、今でも簡単に入手できるパーツで作ることが出来るのことが技術的やビジネス的には最大のメリットではないかと思います。
次の理由ななんと言ってもアマチュアからプロギタリストまでここまで支持を集めているのはなんと言っても神格化されたギタリストの一人であるスティーヴィー・レイ・ヴォーン=TubeScreamerサウンドの代表になっていたからだと思います。
ということで今回、@ikisugitaDIYさん経由で@kazz51 さんから5台のTS系をお借りしてテストなどをさせて頂く機会を頂きました。
これらのペダルはビルダーさんが作ったTS系のクローンやModのペダルということですので、これらに果たしてどのようなアイデアが埋め込まれていて、その結果オリジナルとどのような違いがあるのかを探ってみました。
TS9 1st Reissueの基板を観察してみた
まずは基準として使う、Ibanez TS9 1st Reissueの基板を見てみます。
オペアンプは東芝製のデュアルオペアンプTA7555BPが使われていますね。
クリッピングダイオードは白いラインが入ったものでした。
TS系1号の基板を観察&パーツチェック
ビルダーさんのクローン基板のようで制作方法やパーツ配置などには独自のノウハウがあるようですので、基板の写真のアップは控えさせていただければと思います。
こちらがシミュレーション用で起こしていたTS808とTS9の回路図はこんな感じです。パーツ番号を参照してください。
まずはTS系1号機はどのような基板とパーツをまとめてみました。
オペアンプ
- U1/U2はTI社のRC4558 マレーシア製。ビンテージオペアンプですね。
クリッピングダイオード
- D1/D2はブルーラインのシリコンダイオード。
バッファトランジスタ
- Q6の入力バッファはTO98パッケージの2N5172。これはビンテージトランジスタと言って良いと思います。
- Q9の出力バッファの型番はホットボンドに隠れていました。おそらく国産のTO92パッケージで型番不明でした。
抵抗
- 全ての抵抗に極太の2Wカーボン抵抗が使われていました。これはすごいですね。直径は5mmくらいあり通常の1/2w抵抗の2倍以上の太さです。
- また、R15の470Ωにおいてはカーボンコンポジットの2W抵抗が使われていました。これも更に大型で通常のパーツショップでは販売されていないレアな抵抗ですね。
- R10がオリジナルでは220Ωですが、390Ωに変更されています。TONEポットの抵抗位置とEQのかかり具合が少し調整されているようです。
コンデンサ
- C1の0.02μFのカップリングコンデンサは東信のUPZポリプロピレンコンデンサ。オリジナルはポリエステルです。
- C3、C8はルビコンのポリエステルコンデンサ。オリジナルはクロレッツのポリエステルです。
- C4の発信防止セラミックコンデンサはオリジナルが51pFですが47pFでした。
- C5とC6は0.22μFのタンタル。オリジナルもタンタル。
- C2とC7の1μFのNP電解はMallory製が奢られています。
- C9の10μF電解コンデンサはELNA製。
- 電源部C16とC17は日本ケミコンの導電性高分子アルミ電解コンデンサAPFシリーズの100μF16V。オリジナルは通常の電解コンデンサです。
またオリジナルのC16は47μFですが、100μFとなっています。
TSクローン1号これらのパーツの考察
この1号機の裏蓋を開けると直径5㎜くらいある巨大な抵抗がゴロゴロ転がっていますのが目立ちます。
オーディオ界隈では容量(W数)が大きい抵抗ほど特性が良いとされていますが、金属皮膜ではなくカーボン抵抗を選択しているのが拘りなんでしょうね。
また、音の通貨経路で一番最後のインピーダンスを決定する1本の抵抗だけカーボンコンポジット抵抗にしているのはここでFuzzFaceなどと同じようにビンテージ感を追求しているということでしょうか。
次はコンデンサの方は抵抗ほどでは無いですが拘りの使い分けがされています。
ただ各コンデンサの容量値はオリジナルをそのまま踏襲していますので、コンデンサの定数変更により所謂Modが行われていないのが憎いですね。
コンデンサ定数をいじることでEQが変わりますので、簡単に音を変えることができますがそれをやっていないということですね。
ですが入力のカップリングコンデンサはオリジナルがポリエステル(マイラ)フィルムコンデンサなのに対して、オーディオ特性に優れるポリプロピレンコンデンサに変更されています。ここではオーディオ特性を向上させていますね。
但しここで安易にWIMAのような見た目重視(勿論性能も良い)のコンデンサではなく、見た目は安価なマイラと同じようなタイプの高性能コンデンサを選択されているのも逆に拘りなのではと思いました。
その後の回路セクション間のカップリングコンデンサは、MalloryとELNAが使われるなど渋いメーカー選択なっていますね。
ここでも所謂高性能ですが誰でも入手出来るオーディオ用の電解コンデンサでなく、入手がやや困難なMarollyコンデンサが使われているは流石だと思います。
おそらくこのコンデンサはもう製造されていないのではと思いますのでちょっと貴重ですね。
でこのように全体的にビンテージな雰囲気の墾田なが並ぶ中、電源部のデカップリングコンデンサに最近の国産ブティック系ペダルでは定番になりつつある高分子タイプの電解コンデンサが配置さされているのが面白いですね。
で実はニチコンの高分子電解コンデンサの中でもFPSタイプという高性能なものが使われているのもポイントです。
ここも電源部だからこそ明らかにローノイズに貢献する高性能性能コンデンサを選択されているのは妥協していないということですね。
で、私もこれで気が付いたのですが、TS9の後半のトーン回路のコンデンサはタンタルコンデンサだったんですね。
現代では0.22μFであれば高性能なフィルムも選択肢になると思いますが、あえてオリジナルと同じタンタルコンデンサを使っているんだと思いました。
ということで、抵抗とコンデンサはよくある全てをオーディオ用を採用する安易選択ではなく、まさに適材適所で要所だけ(入力のカップリング、電源部のカップリング)を現代的なオーディオ向きにして、その他のパーツはやたらオーディオグレードではなく、かと言って安価なものでは無いという、パーツ選択にはかなり拘りのあるビルダーさんのようですね。
で最後にTS系で皆さん最も気になるオペアンプですが、こちらもテキサスインスツルメンツのマレーシア製、つまりビンテージの4558が使われているのもポイントです。
4558のソフトクリッピング回路でビンテージオペアンプがどれだけ音を変えているのかわ私の耳では判らないんですが、とにかく貴重なビンテージオペアンプを投入していること自体非常にまじめにコストを惜しまずパーツをセレクトされていることが伝わってきます。
ということで、淺津ですが抵抗、コンデンサ、オペアンプのパーツ全て手抜きやコストダウンは考えないでパーツをセレクトされいるのが素晴らしいペダルですね!
参考になります!
さてここから計測結果のご報告です。
TSクローン1号機の周波数特性は?
ちなみに、まずはTS9の周波数特性を練習で計測した記事がこちらです。
でTSクローン1号機と、リファレンスとしてIbanez TS9 1st Reissueの結果を比較してみますが全ての条件で比較すると纏めるのが超大変なのでw、今回はTSのDRIVEを2.5、そして、TONEを2.5、5、7.5での計測結果を比較プロットしてみました。
このようにこのTS2台の周波数特性はほぼ重なっていました。
細かく観察してみるとTSクローン1号機の方がほんの僅かに高音が出ていて、ほんの僅かに低温がタイトなようです。
で一番重要なEQの周波数ピークは同じと言って良いので、この2台ほぼ同じ周波数特性と言えると思います。
ちょっと判りにくいのでTONE=5だけ見てみます。
ほぼ両者の周波数特性が重なっていました。
この僅かな違いをあえて言うなら10Khz以上がややクローンの方が出ているのはカップリングコンデンサが高性能になっているなどの要因があるのかもしれませんね。
ただ、あえて言うならこの2台のペダルは同じ機種と言って良いくらいですね。
つまり、このTSクローン1号機はTS9と言っていいと思います。
これは回路図でもコンデンサの定数がTS9と同じですので当然と言えば当然だと思います。
TSクローン1号機の倍音特性
こちらがTSクローンのDRIVEを5にして1Khzのサイン波を音量を変えながら入力した時の波形と倍音構成の様子です。
で、こちらがIbanez TS9 1st Reissueの波形と倍音構成の動画です。
Ibanez TS9はこのように安定し一貫性がある奇数次倍音生成マシーンですが、TS9 クローンも同様の傾向ではあります。
ですがやや偶数次倍音の比率が多く、やや倍音構成の変化が複雑のように見えます。
これはおそらくオペアンプが古いのマレーシア製であること、あるいはビルダーの方がクリッピングダイオードの特性をあえて揃っていないものを使っている可能性があると思います。
TSクローン1号とTS9の倍音発生のパターン比較
こちらの記事の後半のようにスペクトラムによる時系列の倍音パターンも計測しています。
TS9クローン1号のDRIVE=5でのスペクトラム。Ibanez TS9 1st ReissueとTSクローン1号機の差をGIFで比較してみます。
Ibanez TS9 1st Reissueと、TSクローン1号のスペクトラムをサイドバイサイドで表示してみました。横軸は1/2にしています。
倍音の発生分布見事に似ていますね。ここまで似ているのはやはり同じ回路と言って良いですね。
ただ、あえて言うならTS9の方が横線がくっきりしている(流石奇数次倍音マシーン)なのに対しTSクローン1号の方が線が太くぼやけている感じ。
これはTSクローン1号のほうが少し倍音の発生分布が豊か(ほんの少し)、あるいはオーガニックであると言えると思います。
で、上のアニメーションGIFにあるように音が減衰しているとろの余韻の部分に若干の倍音の出方の違いがあるように思えます。
次に同じスペクトラムデータですが低音側を拡大する為に縦軸をLog表示もGIFアニメにしてみました。
こちらもサイドバイサイドと気になる部分を白枠アニメにしてみました。
TSクローン1号 v.s. Ibanez TS9 1st Reissue音出してみた
ということで、この2台をスタジオで音を出してみました。
演奏ではなく、ひたすら気になるところの音を出している貞でやさしく見て聞いて頂ければ幸いです(^^
この環境の説明ですが、ギターはFender Stratocaster。
それをまず、バッファ兼ブースター兼スプリッターに入力します。
このスプリッタは自作ですがこのテストの為に周波数特性が低域から高域まで出来るだけフラットになるように作ったクリーンブースターです。
スプリッタで2つに分かれた信号は2つのペダルに入ります。
そしてそれぞれのペダルの出力をAB Boxで選択することになります。
わざわざスプリッターにしたのは、2つのペダルに常時ギター信号を入力させていて休ませないように(^^することで同じ条件で音を切り替えるようにしたかったからです。
でAB BOXからTech21 SansAmpに入れ、アンプライクなクランチを作ります。
これはTSタイプのペダルは奇数次倍音の生成マシーンですのでコンプレッサー兼エンハンサーみたいな役割のペダルだと思います。
なので、TS系の後には偶数次倍音を出す歪みが必要になると思います。その役割がSansAmpということですね。
ちなみにこのSansAmp Oxfordは別途テストしていて、こちらはしっかりと偶数次倍音がたっぷり出るペダルであることを確認しています。
そしてSansAmpの出力をみんな大好き(^^ Roland JC120のリターンに入力しています。
これは、スタジオにある真空管アンプの個体差やコンデションが激しいことからこのようなペダルの比較テストには向かないと思ったからです。
TSクローン1号まとめ
このペダルの回路の定数はIbanez TS9とほぼ同じながら、パーツのセレクトは強烈な拘りを感じる一品ですね。
拘るといってもやたらとオーディオパーツを使っていないこと、かっこいいです。
でこのような徹底したパーツセレクトを行うと生産台数も限られますしコスト的にも利幅がかなり薄くなりますので、なかなか他では出来ないことだと思います。
結果このペダルの裏蓋を開けた瞬間、買ってよかったと思わせるペダルだと思います。
ただ、このような拘りまくりのパーツをセレクトしたとしても出て来る音はやはりTubeScreamerとしてわずかな違い(それが大きいのかもしれませんが)の範囲に留まるのがTS系の特徴なのではと思います。
TS系はペダルを選ぶのではなく、やはり弾き手を選ぶペダルということかもしれませんね。スティーヴィー・レイ・ヴォーンのような音を出してみたいですね!
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